子どものウェルビーイングとひびきあう〜 権利、声、「象徴」としての子ども 〜

  • 山口 有紗 著

明石書店

この本は、たしかに子どもについて書かれた本です。
けれど同時に、すべての大人のための本でもあります。

本書は、子どもの持つ力への深い敬意を土台に、子どもにとってのウェルビーイングとは何か、そしてそれを実現するために大切なことは何かを、多角的な視点から紐解く一冊です。

私には子どもがいませんし、日常的に子どもと関わる機会も多くありません。だから読み始める前は、「きっと、子どもと関わる人に向けた本なのだろう」と思っていました。

けれど読み進めるうちに、その印象はほどなく変わりました。

「子どものウェルビーイング」というテーマは、「人にとっての“ウェル”な状態とは何か」、そして「そのために必要な環境や社会とはどのようなものか」という問いへと自然につながっていくからです。

気づけば、「子ども」と「大人」とを分けて考えていた自分の見方が少しずつほどけ、自分ごととしてページをめくっていました。

「象徴としての子ども」という視点

そんな本書の根底に流れているのが、「象徴としての子ども」という視点です。

著者の山口有紗さんは、こう語っています。

わたしは、子どもは「象徴」だと思っています。世界で起こっている「いま、ここ」の輝きをまなざし、それに対して動き、自分たちが生き物として必要なことを知っている存在の象徴。より大きなうねりの中にある(あるいは、わたしたちは所詮うねりの中のかけらでしかない)ことを具現化している存在の象徴。同時に、それが非効率であるとか、マジョリティとは異なるとか、物理的にまだ発達の途中であるという点で、排除されたり軽視されたりしやすい位置にある存在の象徴。

子どもを象徴として捉えてみると、そのあり方は私たち自身の中にも見つけることができます。世界をあざやかな感性で受け止め、より大きな存在とのつながりを感じ、評価や効率では測れないものを大切にする感覚。それは子どもだけのものではなく、(本書の言葉を借りれば、)大人になった私たちの中にも「子ども性」として息づいているものです。

「子ども性」に耳をすます

さらに山口さんは、私たちがいま置かれている状況について、次のように述べています。

現代社会は、このシステムのほころびに、人々が魂の芯の部分(うちなるコンパスとも言うのでしょうか)では気づいているものの、ではどうしたらいいのかを迷っている転換期にあるのかもしれません。

効率や合理性が優先されがちな社会のなかでは、私たち一人ひとりが本来持っている「子ども性」や、直感にもとづいた心の声は、後回しにされてしまいがちです。

だからこそ今、子どもたちのまなざしに学び、自分の中にある「子ども性」を思い出すことには大きな意味があるのでしょう。世界に驚き、違和感を覚え、心が動く方向へ素直に耳を澄ませること。その感覚を取り戻すことが、自分自身のウェルビーイングだけでなく、これからの社会のあり方を見つめ直すことにもつながっていくのだと思います。

この本は、子どものことをよく知るための本であると同時に、自分の中にある「子ども性」に向き合う機会をくれる本でもありました。

Writing: Yumi Asari

著者について

山口 有紗(著者)

高校中退後、大学入学資格検定に合格し、立命館大学国際関係学部を卒業。約30の国や地域を歴訪。山口大学医学部に編入し、医師免許を取得。東京大学医学部附属病院小児科、国立成育医療研究センターこころの診療部などを経て、現在は子どもの虐待防止センターに所属し、地域の児童相談所などで相談業務に従事している。国立成育医療研究センター臨床研究員、内閣官房こども政策の推進に係る有識者会議委員、こども家庭庁アドバイザーも務める。ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生学修士、英国チークリ・ヨガ認定講師。一児の母。

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